水守   田代深子

 

発砲 とどかない水の弾は 
砂岩に散り気化する その薄煙 
に映りこむ半笑いの 驚いたかお 
おちようとする弾道はねじれ光り 
肩胛骨右頬臍のわきに射しこむ 
不連続の水弾 体と同じ温度の 
ふれているのか どうか 音のようか 
水とも礫とも ときに指先ほどの 
触感だけ とぎれず つづかず 

母の母に握らされた硬貨の酸っぱい赤みがまだ掌にのこる 
ポンプ井戸を無闇と漕ぎ洗ってもなお痒みが 表皮一枚の下 
うれしくなかったのかい そんなことは ありません ただ 
恥ずかしさは 痒い 細く水の皮膚を流れるように今でも 
あなたは隠さなかったのか その水の根がどこにあったのか 
奪ったものを隠し守る饐えた臭いがする 恥じながら 
受け継いだ 井戸の底へ 油紙でくるむ硬貨と写真を垂らし 
桶に一杯 碗に一杯の水がいくらいくらと目をそむけて 

真上で風が 鳥の喉をとおり 
高だかと鳴る ふり仰ぎ 
水砲を自ら開いた口腔に発すれば 
温い水が いずれ内膜にしみる 
ふり仰いだ胸に 水弾 なんども 
半笑いで 仰臥すれば砂岩にこぼれ 
このからだじゅうの胞水があふれ 
千年のうち すべての井戸に満ち


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