落合白文
 

 
病院の裏口で 腕からチューブを垂らす老婆に
ニコチンと手を切るための手段―それができなきゃ、

うまい付き合い方の講釈を聞いた。始めたら負け。
点滴は寿命を表す蝋燭そのものであり

注射針から滲入する液体の重みだけが
身体を地面から引き離さずにすませている。

でもまあそれって、医者がいれば一件落着に違いない。
彼らはやるべきことをやってくれる。すべては手遅れだが

他の女とホテルで一晩やり過ごすような 自分しか愛さない
一人称に比べればまだましだし、まったくもってそう。

暗闇の中でベッドに横たわる女はすべて人魚だから
名前を呼ばれたからには カナヅチだなんて

言っていられやしない。それが初心であれ
馴染の家であれ 今となっては変わりばえのしない洗面台

蒸気で曇った鏡に浮かぶ うつろな顔を沈めるのは
感嘆符。

一方で胴体は、鳥が飛び立つ姿勢で大きく腕を広げ
そこには無数の針の跡。
 
 
 
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