眠る家     早坂恒

 

あなたと私は海へ行ったのよ。三年前のことよ。どうしてかっていうと、あなたが海に行ってわかめをとりたい、食べたいというから、それで無理をして海へ行ったのよ。
そしたらあなた足すべらしちゃって、わかめって岩場に生えてるでしょ、干潮のときにとれるでしょ。そこでつるんって、足すべらしちゃって、気を失っちゃったの。情けないわねって、私笑ったけど、でもいつまでも起きないから、怖くなっちゃったの。
それからあなたずっと寝っぱなしだったのよ。ついさっきまで。ほんとうよ。
ずうっとよ。ご飯は食べないし、トイレもしないしで、どうして生きているのかわからないけど、でも生きていて、ずうっと寝てるの。
どうやっても起きないから、私が服を着替えさせたり、身体を拭いてあげたりして、それで三年間も寝てたのよ。
でも、目が覚めてよかった。大丈夫みたいだけど、しばらくはじゅうぶん注意しなさいね。髪は、あまりよくお手入れできなかったから、お風呂で自分で入念に洗うのよ。ほんとうにね。

嘘よ。

あなたが三年間も眠っていたなんて嘘よ。ほんとうに眠っていたのは私。
夢のなかであなたの服の裾をまくり、ひざこぞうを出させて、くるくると撫でた。あなたはわがまま言わなかった。
言えばいいのに、って思ってるのよ、きっと。

今日は一緒に寝ましょうか。
同じ布団でね。そうすれば、一緒に眠れるし、同じ時間に起きれるでしょう。
 
 
 
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