睡蓮   市村マサミ



今

天から落ちた星が
池に落ち
どぶ池に落ち
だあれも知らない山奥のどぶ池に落ち

スケッチの途中のような

コンビニエンスごみ類の浮いた

どぶ池に落ち

わりばしや雑草、バランみたいな雑草、
プラスティックの容器、残飯、泡沫、コンビニエンスごみ類
―鉛筆の芯の色

それらを内側から薄黄色く照らして
ぼわ、と照らして
ごみ類輝いたかと思えば
やがて元のデッサンに
元のどぶ池に
すぐに元のどぶ池に

戻った

蛙を探したがみつからず
睡蓮くらいはあったような気がするけれど
蛙はみつからず
音はなく
ただ
山奥の、どぶ池の、デッサン画

薄黄の色が
その光の粒が消え広がってしまう前に
わたしは手で色を捕まえようと
とどめておきたいと思っ
思いよりもはやく色は
霧散しました


そのあとはただ愛おしい
山奥のモノクロのどぶ池だけが
わたしに残されました
睡蓮の葉のうえに
いつか
いつになるかわからないけれど
蛙をのせてみたい

その鮮やかな緑の蛙

夜の
鉛色の夜のデッサン画のどぶ池の睡蓮の葉のうえで
眠そうに笑っている
その蛙は
わたしです

なんと愛おしい
ただのわたしよ
なんと可愛い
ただのわたしよ

 
 



※おわび
一二号に寄稿していただきました市村マサミさんの「睡蓮」ですが、
紙版では誤って掲載漏れとなってしまいました。
改めてウェブ版に掲載するとともに、
市村マサミさん、ならびに読者の皆様方に
謹んでおわび申し上げます。(編集: 清野)




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