顕現     田代深子

 

スマートフォンを買うでなし 雪のなか素手をポケットに通信社の出先へ着く はいり口のシリコンを押すと瞳のひどく大きな女性がくもりない緑のスーツ姿で現れ 「いらっしゃいませ。ごようけ」 彼女をスクロールし 次に同じ緑スーツの華やかな唇をした青年は 彼もスクロール 声に出して 聞いていたとおり
案内はテキストだけでお願いします。音声も不要です。
瞳孔に眼鏡越しの光がさっと射さる
「ご用件をお知らせください」「新規購入」「機種変更」「料金を支払う」「トラブル発生」「なんか様子が怪しい」「癒されたい」「解約する」「のり超える」「その他」
ひときわ光る新規購入に触れると天井が上がり四方が遠のき香りのよい空気の流れ 南洋の植物が配置された広間のガラス張りの壁に 絶間ない雪が降る
電気音のない安寧
通い詰めて占有する人間が出たので防止策が張られる 仕掛けを考えるのは楽しく仕掛けるのは面倒くさい 自らなにも解決したくない人間は遍くおり これこのとおり滅することはできないのだ 現れたらとり除き 現れてはとり除かれ 軟性の播種しがちな腫瘍を破ってしまわない同じ丁寧さで どけられ またぞろ温床を探していく
報復のように 呪術的裏技が必ずあみだされた 潜り込んで垣間みる幻視のごときバグの引き出し方が テキスト表示をそのパターンで七回くり返す それも雪の日に するとテキストとテキストのきりかわるあわいに それは 視神経を射すパルスと自前の脳が呼応し 視える
射さった光針は雪が消えるまで肉の眼を痛めるのだと ふしぎとも言えないが必ず生理的な涙は流れるのだと 聞いている
 


 
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