沖の玉  萩原健次郎



海のみちをすすむ

魔術のようだなあと
硝子玉のなかから声がする

月夜に浮かぶ、その玉は、薄黄色に揺らめいて
生き物みたいに、かすかに発声している

 (虚言の呪文だよなあ、まったく

うりゃ
おみい
そげな

魔術は
きばる呻吟から
ぴゅぴゅ
迸り、
噴きだす

気は、天気からも暢気からも、洩れる
女の妖術師なのかなあ
なにかの薬の粉を、まき散らして
萎えているのに

平気なのだから、気配は
むせ返るほどに
甘い

うりゃ
ぶくぶく

おみい
しゅるしゅる

そげな
うだうだうだ

亀をひっくり返そうかと念をおこして
発起というやつか、ひとこえまた唸り

吾は
まるで
極薄の
海藻みたいに
ひっぱがされる

(うみのみちを
  忍んでなあ

うっとりと
うるおいのある

恋が
こだまのなか
している

  




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