白鳥を焼く男 萩原健次郎 その手はどうしたの、 すこし焦げ臭い。 いま、万象ののぞみを焼尽して なのに服のポケットがふくらんでいる。 燐寸、藁、紙の筒、 燃やしたから、もう戻れない。 あの炎のあの場所に 水はかけなかった。 鳥の悲鳴、 わたしの悲鳴、 血が焼けた。 もう思い出になって、 いまは、空に通知した。 短調の人どうしで弔って、 水郷の、 点々とする沼沢を歩いて帰ってきた。 不滅の。 悪者を抱擁したい。 「白鳥を焼く男」は、ヒンデミットの曲のタイトルより