乱色  市村マサミ

 

瞼の裏のカーテンレールに引っ掛けられたハンガーに、
だらしなくぶら下がるバスタオル。
そのふっくらとした感触にくるまれた、傷み汚れた花の裂け目から
短絡的に飛び出した俺の死の瞬間。

うるさいうるさいうるさいうるさい光が。
了解しない約束ばかりが天上裏から降ってくる。

電気仕掛けの太陽が簡略化された人間どもを照らし出すと、
Q&Aの影法師が、道徳というザルに透かされて穴だらけだ。

一寸の虫には五分の命。
バルサンでも焚いて殺し尽くしてしまえだ。

羽虫に汚れた床にこぼれた酒を吸った酔いどれが踊り狂っている。
いや、踊り狂っているのではなく、おそらく狂って踊っているのだ。
それしか出来やしないのだ。
あらかじめ決められた選択肢の中から、
俺は千切れた猫の首をつまむ。

そいつをバスタオルにくるんでくるくるくるくる振り回すと、
曇天のスクリーンに苺の実がなる。
ぼたぼたと落下してくる実を拾い、頬張ると鉄臭い。
種を胎んでいるせいだと、俺は唾と共に吐き捨てる。
遠心力に従って、猫の首がバスタオルから剥げ落ち、
壁に当たってゴツンとなる。




壁には猫の目玉がどろりと粘り、俺を一瞬睨みつける。
俺はとろろ蕎麦の出前をとる。
こぶと蕎麦を同時にずるずるとすすりながら、
剥き出しになった猫の腸臓の始末を考えている。
「みいちゃん」と話しかけてみる。


へんじがない ただのごみのようだ。
ごみはごみ箱へ、と幼稚園のときに
楠瀬先生に教えてもらったので、それは却下。
俺は血液の滴る腸臓を首からぶら下げ、おんあぼきゃべいろしゃのう。
明るすぎる町を反射する包丁を両手に、一つ一つ灯りを消していった。
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