花の栖  田代深子

 

深山へ入り 
梅木のひと群れ 
鬼の婚礼にあい 
無縁の稀ひと 
とよばれた 
塩と杯 
口手きよめ 
鬼のめおとに酌をさす 

鬼と鬼とちぎるとは 
肉と臓 
骨と皮 
ちぎりあうすえ 
ちぎりきれぬひとすじ 
のあり 
そのあやを手繰る 
互い交わして 
襷に結ぶ呪言となる 

鳥ども梅を齧り 
花しとね 
ほとほとの青香を枕と 
鬼めおと手折れ 
腐すうえに 
婚礼の客は 
神酒と塩をかむらせ 
みるうち下生える 

日は落ち星落ち 
あしたに 
鬼めおと目さめ 
鬼めおとのふたおや 
ふたおや膝そろえ 
稀ひとよ 
ここに栖まいせよ 
この下生えに 
栖おきたもう 

 いわれもない 

いわれないか 
鬼めおとの花しとね 
東よりあした 
稀ひとや 
おまえはどこから 
なぜ来たか 
足指の爪 
柔肌の血に剥けて 
いかりうらみを 
息と吐く 

 もどるからだ 

鬼ども深山へ去り 
梅の下生え青香たつ 
枝を折り 
いくたりと地突き 
おうおうの息吐いて 
月かくれ雨のあり 
あしたに 
鳥ども梅にとまり 
枝の露を吸う
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