空の全音符   市村マサミ

 

夜空の全音符にディレイをかける
名も知らぬ星々よ
その第一音を聞きたくて
俺は思いをめぐらせる


酒よ煙草よ
君達は俺のディレイタイムを加速させる
おまけに風景に
とても深いフランジをかけてくれる友達だ



CDケースの上に作られた
ひと筋のミルキーウェイ!
キーゼルバッハを駆け抜ける
夜を越える激流を


真っ赤に染まった空の全音符よ
お前の愛こそが俺の苦痛の根源か
青き月の小型模型でやり抜ける
流行性感冒にも似た寂しさか


刃毀れをおこしたギターの音色が
錆びた血液を落としながら
肝硬変を患ったベースドラムの周りを
ふらふらと回転している


バンドの弾き出した
星屑をすり抜けて
月のように太陽のように
ナンバー9


梵具に浮かんだ宇宙のなか
始まりを告げる全音符よ
俺はお前のために
俺を失い続けていく


ことばの速度が遅れをとって
ディレイタイミングが狂いはじめる
混沌の時が現れ
公倍数の箇所でラブ&ピース


音速の中にあって
光速で放ち続けるもの
放たれ続けるものは
輝き続けるものは


失われていく俺と
失っていく俺と
失うという力と
俺が失ったもの


弦の千切れたギター
穴の開いたベースドラム
しわがれた力のない
声


酔っ払うことにも
ラリることにも
まるでガスのように
飽きてしまった


全音符が
アトムに向かっていく
月も太陽も
もう黙ろうというのかもしれない


と
こんなものを毛筆で
トイレットペーパーに
書いて丸めて
水洗便器の前に立っている

ああ飯が食いたい


 
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