オーパス1   青野直枝


花を摘んだら
花びらを一枚ずつ剥がして
茎と芯と
匂いだけこころにとめる

あそぶのは
お日さまが高いうちだけ
山をわたる風は

山をわたる風は
つめたいのが気持ちいいから
知らない
方角のことなど知らない
だってすぐ
時は過ぎる

エチュードを暗譜して
頭がこんがらがった
黒鍵を叩く指が
一音間違っただけでも怒られて

反芻する物語のことも
丘を駆け出したら ぜんぶ
忘れてしまった
そうして家に帰ったら
くたっとした花びらのない茎を
まだ握りしめていた
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