書架ノ魔女   六崎杏介


赤いダリアの咲いた言語の未開の地は
点燈する電飾の告げる震える夜
或いは薬理により昂揚する闇に視る夢に
この素足に踏める広大且つ膨大な
亡と幽の蔵書票の荒野になりて
紙々を掻き毟る羽ペンの飛ぶ深遠から
手廻風琴の呻きをインクに沈め
贋作の寄稿書とのアンサンブルを断ち
象在る全ての文字を祝福している
或の魔女は深く黒い瞳で診る血文字の棺を
此処は旧きセピア色の庭園なのだと
ペチカにくべて正確なカシオペアを
高い高い宵空に浮かべて疲れた十字架を
慰撫してはユーリカを緩うく散らす
此れは靴と服の為此れは媚薬の為と
幾千の葉を開いては万象の誕生を食む黒山羊を
愛撫しマリファナや芥子の細工を此処に落とす
偉大なる大図書館の怪奇なる亡霊にて。
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