素面   細川航 


ぜったい言霊に死ぬ 
物語の終わるところでうれしいといって 
かなしいといって 
素粒子のくずになり真空に消える 
点を殺して線にして、つながったところでそれが自殺して虚数になる 
日常的な喉とそのあからみ 
わたしたちの祈り 
白鍵に赤を作るこころみ 
棘を握ってしまったのでなく 
ばらの血を出そうとしている 
蜂の虚数的 
閾下に耳を澄ますわたし 
丘に移調の限られた旋法 
崖にオンドマルトノ 
ぜったいに切り殺せる連打 
曖昧な雨、想像上の親指のうちがわ 
掻っ捌いた水玉 
閾上のできごとが黒い雲として 
ついに僕のからだに顕在化する 
ぜったい言霊に死ぬ 
わたしのつぶやきをぼくが聞きそれをささやきにかえる 
聞き間違えたら死ぬ 
足りない290デシベル 
耳にはいとしいものの皮を張る 
ぼくはあきらめたくない、の異音同義語を口走りつづける 
頬に針金がささるすごいスピード 
ゆるめないでこの羊だけは盗む 
さっきから 
すごいステップをしてる 
すごい声が出てる 
閾上でディストートしている 
ぜったいにロックミュージックだとおもう 
鮫の虚数的 
呪いなんてないよ、僕が呪っている 
すべてが悪いほうに傾ける 
僕がいましていることも 
きっと想像をこえてる 
笑っているような頬 
すぐさま身をかわして曖昧な認識の 
かみなりのようなものをかわす 
雨が降ってきたら雨のようだと思う 
雨が降っていないのに 
ぎりぎりに緩まった弦の 
金属音にかくれたかすかな音程で 
呪いなんて 
ないままに愛せるよ 
諦めないでいいよ、 
のそらみみ 
首の血管の浮き上がり 
ただ僕は 
声を 
出しているだけなのに
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