録画   青野直枝


林の立つ色が
変わらない輪郭を模るとき
守られることばを抱いて
恣意の記号を読み上げる
葉は濃さを増して
そこらじゅう匂いが充満する
やっとつかんだ手首に
痛いと言って唇を固く噛んだ
まるで小さな劇場みたいな
明るいステージにいる
木漏れ日があんなに目映いから
ひかりは波のように見える
静止画像のような微笑み
再生ボタンを躊躇う指の感覚
それでも時は流れてしまうのだと
遠さを告げる風で知る
その黒髪
巻き戻し 肩にはらわれるまでに
ことばは虫のようにいのちを持って
夏の高い太陽を求める
覆い繁った木々で
間隙から僅かにしかその在処を掴むことはできないが
葉脈があんなにも透けて
どくどくと生々しい水を運ぶ
素肌に当たるのは髪ばかりではない
中空を舞う視線が
棘のようにやさしく突き刺さり
定まったところには
もう君の姿はない
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