馬喰   田代深子


負けを受け入れてしまう奴に
負けは回ってくる が
負けを受け入れる奴だけが
馬に賭けられた
神の獣が走り
ヒトが引き回される庭園
輪になって従者をつれ
吾のみぞ歩むていで
尻尾を上げてはボロをたれる
美貌の青馬 その睥睨
かがやく骨格と肉づきに
父母の血脈が顕れ
まばゆいその階段を昇っても
コンマ一秒先にも着かない
着かない蹄は祝祭を仄めかし
無頓着に踏んで土に変える

しめって重い馬場だろう
トモは張っているか
歩様は力強いか
むかし中国に名馬喰ありて
〈黄色の牝馬がいい〉
と言ったそうだが
このレースは緑か
内枠か牡か古参か
まだら葦毛の裡に隠れていた
あの灼熱の白金は
ゲートからハナをきり
ゴールまで悠々といった
奇跡に立ちあったのだと
うかされて轡を牽かれ
蹄跡うがたれる坂を降れば
蛍光灯の地下道

小銭をつかもうと
ポケットの底で綿埃と
ガムの噛み滓を爪にかける
未来を予測できると思う錯誤
  むしろ願いだが
迷いを恥じながら紙片に
短く線をいくつか刻む
その列びにさえ意味を見る
馬喰の祖は言った
〈見た目じゃねえんだ〉
じゃあ何だ 数字と骨肉と
胸騒ぎの
延長線上でまじわるところ
よくできた反未来では
かがやいて色もわからぬ
あの馬が走り抜けている

かならずかえってくるのだ
一完歩寸前にのぞむ
絶対未踏の地
あの馬が
踏んで生粋の土くれとなり
蹄跡が奇跡をかすめたら
またつぎの
そしてまたつぎの
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