解体がはじまる   青野直枝
 
 

六面のどれから解体していけばいいのか 私
はルービックキューブについて思案している
既に完成された六色の面の二次元を解体する
こと それは誰もいない砂浜の漠々とした白
の均衡を方位的に破る
 
ような
無明の闇が辺りを覆うとき 詐術を心得た波
の共が夥しい副詞句をつくる 《ともに》と
か《ままに》とかあなたは波の引っ切り無い
反復に狂乱を覚える 私はどれから解体して
いけばいいのか それを壊すことは
余寒の残る春に日雀たちは啄ばむ実を探して
いる 此処は貝殻しかないのだ 真白な砂浜
では思い出すら水泡の一滴に変えてしまう
《ともに》水棲の呼吸法を記録せよ 《まま
に》燃える闇に身を委ね 波が返るときに囁
くのはそんな繰り言ばかり つねに
 
あなたがそんなに悲しいとは
そんなに悲しいとは
 
啄ばむ水をあげましょう 海水では
ないですよ
 
ついに緑の面の解体を始めた 侵入する赤や
青、黄色 その鮮やかさに眩暈しそう 今や
三次元空間に色彩をみている 砂浜を走りま
わるあなたはとても美しい 点点とした足跡
はときに重なったり交わったり 時間も忘れ
思い出を摩耗し 波は砂浜が所有する貝殻を
運びさえし出した
 
集合の中の空集合を数えなさい 闇の中に白
はいくつありますか
六色が色んな風に散らばった六面はそれだけ
で完成している 緑の面には六色のこれまた
小さな四方形が整然と整列している
 
啄ばむ四角をあげましょう 闇のか
たちではないですよ
 
わたしはあなたに白を与える あなたが狂喜す
る傍から六面の色を揃え始める
 

 
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