六道小唄   田代深子
 
 

 一
 
ああわかったもうわかった
わかったと言うたびに
うがいの水の歯にしみて
今日の午後には雷だとか
網戸のそばで気でも読もうか
みたいに蜂を見る
 
 
 二
 
濃すぎ熱すぎたコーヒーを
いそぎながら喉へくだし
インスタントでも違うよね
淹れる人によって香りが
 それは と絶句して
どっちにも転ばないような
 
 
 三
 
地面が乾き猫が出そうだ
猫でうらなう来月は
横縞なら吉 縦縞なら凶
犬似ならそこそこ
できれば綱渡りなどしたくない
とびさった黒影の尾は半端
 
 
 四
 
甘いものをほしいこころ
菓子棚をついばむこころ
甘さは赦し甘さは受容
甘さは慈愛甘さは祝祭
エクレア芋けんぴナッツチョコ
コンビニの蝶や蜂や
 
 
 五
 
巻毛の犬と笑顔を交わす
犬たちのやさしみが地域を巡る
歩行不足の人びとを連れ
足まかせの領域をにおいで囲む
ここで あの世界が絶えたとは
国道を境に尾が振れる
 
 
 六
 
皮膚に浮いた小水疱を爪で破る
穴から粘液が出て
春ふかまりに掻く痒みの
痒さはどこにある
草花の繁茂し種子を生じて
虫飛びかう理のうち
 
 

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