歩道   青野直枝
 
 

通り過ぎた ひとつ、またひとつ落ち行く葉
の火灰じみた場景の間を 木々の寡黙 けだ
し槌を打つ人だ、向こうから無表情で歩いて
来るひどくありふれた老父とは 赤道で

重力は小さくなる 亜熱帯から運ばれた重い
荷物を受け取ると宛名しか書かれていない
ある任意の座標へ 即座、思い巡らすのは等
間隔の点の集合体 老父はひどく落ち着き払
った態度で低音を響かせ、手にしているのは
象ったそっくりの手自身であることが分かる
また一つ私の上に葉が落ちてくるので全てが
彼の仕業なのだと 揺さぶられた木の氷点
そこから限られた領域の中に冬とは

(荷物を開けると青葉がぎっしり入っていた
善言を小声で呟くように
あなたが送ってきたものだった)

季節を知るのは時を忘れるためかもしれない
ひとつ、また落ち行く葉は疼痛に身を痛める
まるでなかったもののように木を詰ることは
できない 領域を守り抜くこと 私はもうそ
の中に囲われている

(あなたは風向きに敏い
熱い空気に顔を弄られながら
北の方角を見ている)

卒然と青葉の間から胡蝶が舞い出てきた 翅
翼が鮮やかな鱗粉を散らし斜交いにそれは視
線と重なった 
(通り過ぎ
た ひとつ、また)
ひかりを追うように
瞬きした瞬間、それを失った

 
 
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