自画像のある自画像 原口昇平
ひとりは階段をのぼりきって
屋上が地面より空に近いかどうか確かめている
その手を決してつかみ返せない位置から
鑑賞者がたったいま立ち去る
ひとりは砂浜に立ち尽くして
水平線の彼方から届く壜を探している
その手に何ひとつ手渡せない位置から
鑑賞者がたったいま立ち去る
ひとりは完全な犯罪を企てている
ひとりは画布から消える
ひとりは鏡のなかの鑑賞者と永遠に別れる
ひとりは消しゴムで白紙を描く
最後に休符の絶叫がはじまる
あなたが口いっぱいに音楽を頬張っている