にんげんさがし   市村マサミ
 

 
段ボール箱をかぶってわたくしは
わたくしだけが夜の中
「電車がカーブを通過します」
灰色のスーツがこすれます
人間のにおいがスメル
あ、
破れた夜の裂け目から
恥ずかしさが滑り込んできます

この夜のうわっつらには
国産洋人参という
文字が印刷されているのでした

みっともないβ波が
くさい脳内を掻き回す

この夜のうわっつらには
カッパが人参を小脇にかかえて
ほよよ
という顔をしている
戯けたイラストが描かれているのです

わたくしはこうして
夜をかぶって
沈黙してはいるのですが
五粍向こうの人口の昼が
どうしてだって姦しく
わたくしという人形を
脂の浮いた手のひらで
犯して嗤っているのです

ぐしょ濡れの地下鉄駅では
田舎者の顔をしたみかん
スーツ姿のアスクル
貧乏そうなサウンドハウス
だれもどこへもいけやしないで
うろうろうろうろ喘いでいます

そうしてそれを知るのです
みなさんが光というものを
ずいぶんもてあましていることを

かっぱが手を滑らかせ
にんじんを落としてあたふたしている
掴んでも掴んでも
掴んでみても
脂の浮いた手のひらにはいるのは
時の流れに腐っていく
頓珍漢なにんじんです

犯された涙に
ふやけた夜の隙間から
きゅうりをさがしてのぞいている
首の角度を変えたりして
おかしな顔をしている
わたくしに声をかけてください
夜の中身もしわくちゃです
しわくちゃになって笑います
裏返った声からはじまります

 
 
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