七つの海を、トラクターに乗って   落合白文
 
 

雲の中をジェット機が飛んでいると
空の鼓膜はぼろぼろになる。
トラクターが地面を噛む音、猟師たちは
無音と沈黙を聞き分けられる耳を持っている。

鉛の香りを頼りにして
茂みにしゃがみ続けようにも限界がある。
彼らにとって辛抱とは「無関心」の別名であり
獣のように上っ面にこそ一切の感情が宿るというべきか。

工場のベルトコンベヤーから運ばれてくる
ガラス板に透けて映った、遠近法による心の疼き。
仕事を辞めると切り出して三年経ってしまった驚き。
それらはちょうど天窓にぴったり納まる。

鎮圧された言葉は隅に追いやられ、
私たちはそこで初めて気づく。猟師たちが構える
ライフルに込められていたのが弾丸でなく、
句読点だと。

小春日和。畑ではトラクターが
若草を絡めとるように迂回していた。大航海時代、
運転席に座る祖父は
時折、貝殻に耳を当てて七つの海を跨いだ。

 
 
inserted by FC2 system