くらし   田代深子
 


  二人称があてはまらない 
  何と記すのもしっくりとはこない 
  やはり〈あなた〉と記すよりない 
  あなたは 
  あなたについてわたしが書くことをいやがるが 
  わたしにはあなたを書かずに書きうることが 
  少ない だからあやまっておく この詩も 
  ほかの これからのすべての詩も 



朝ごはんをつくり食べはたらき 
夕ごはんをつくり食べ 
眠る わたしのくらしの 
大切なほとんどはあなたとのごはん 
昨夜の炒め野菜を今朝 
コンソメで煮崩しパンをひたし 
その残りは今夜カレーに 
してしまおう 残さず 
食べよう 
にんじんのしっぽ 
魚の頭と鰭と骨 
動物たちのはらわたも 
煮こんでしまえば身がほどけ 
うまい出汁がでて わたしたちを 
やしなうごはん 
あなたとわたしも三十年 
四十年くらしていくうち 
たがいに尻肉を切りおとし 
肋骨を断ち割り 
このくらしにひたせば身もほどけ 
骨から髄から出汁がでて 
たがいかつかつやしなって 
残さずきれいに食べきって 
いやぁ うまかったねぇ 
黒いかんのんびらきの 
彼ちらと此ちらで向かいあい 
両手合わせて 
ごちそうさまでした 
それで 
そこらがみんな片づいたら 
コーヒーをたてよう
 
 

 
石垣りん「くらし」によせて
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