ビバーク   細川航
 
 
 
雪という言葉がうすみどりに透けていってきみの喉
がかわいて雨という言葉になる もうあれは、千年
という過去とかわらないのに言葉からじぶんを差し
引けないそのさみしさが、すべてがたどたどしいつ
たわりを成り立たせているのなら この、きみから
つづく、わずかな うすむらさきの川が 絶えてし
まえばいい こののどが、きみが 渇いて枯れてし
まえばいい 明日を生きるために今日「死にたい」
と、言っている間にきみの死に生が溢れてしまった、
きみの肌を、つちけ色にした
僕のふたつのねがい、それはきみがいまこの瞬間か
らだの奥底から死にたくなること、そしてそのまま
に永遠くらい生きてほしいこと 君がきみを殺して
も枯れない川を僕は夜どおし登って、澄んだみずの
吹きだまりに出たところで黒いだけの鳥が二度はば
たいた 舞い散る羽根のなかにてがみはあって、わ
すれていたけれど僕はこのてがみを好きだった 書
いたあとにはしあわせな心地でねむった きみも、
わけていてくれたんだとその日は思って 川辺で 
ねむることにした
 
 
 
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